昨年アームチェアーと文机を納めて使って頂いているお客様から家族そろっての食事の機会が増えるからとダイニングセットの制作依頼を頂きました。和室用ではありますが座る、立つ、が楽なように椅子を使う生活を希望され、明治、大正期に洋家具が入ってきて日本家屋で使われていた時の様に脚もとには畳摺りを付ける改造を施して使って頂きます。(スツールは今回の依頼に合わせて描き下ろしの図面に依るので一体式)4〜6人での食事の機会が多いとの事でしたので通常なら余裕を持って1m80cmくらいのテーブルを提案する事が多いですが、今回見せて頂いた部屋は凛として小ぢんまりした和室、テーブルばかりが主張しないように1m40cm×85cmで制作しています。高さも通常より5cm低くした事で更に部屋に馴染んだ様です。楽しい団欒の時が過ごして頂ける食卓になる事を想い納品を終えました。
ぎりぎりではありましたが納品を終えた店舗「eu」さんも無事オープン、mina perhonenの服が掛かるハンガーラックとして3年程前から東京、京都、大阪の各店舗に数台ずつ作っているこのラックも定番になりつつあります。今回は一部を真鍮製に変えて脚もとの工作を少し簡略化などのマイナーチェンジを加えて制作。可動部分のある制作は、木の特性で割れる、狂うなどの事からあまり積極的には引き受けてはいませんが当初の第一条件が移動時に折り畳めること(各展示会、イベントに出動します)でもあったので、ならばその可動部分を積極的にアクセントにと作り始めた形です。完成品はシンプルにしたいと言うねらいとは裏腹にこの蝶番部分は老眼をこすりこすり加工に向かう精度が必要で手間が掛り、何年もの使用に耐え破損しない為の秘密の部品が仕込んであります。ディティールを大切にするのは繊細かつ丹精込めて作られた服を掛けるのだから、と言う思いがあります。
大阪の北浜に窓から土佐堀川と中之島のバラ園を望むeu(エウ)北浜店が10月27日にオープンしました。mina perhonenの洋服を中心にクラフト作家の作品を扱い、また徐々に海外のブランドも出会いと共に増やされるとの事です。オーナーの林さん、スタッフの皆さんのお人柄で暖かな雰囲気のお店です。アトリエKIKAで作ったハンガーラックを使って頂いています。
http://www.eu-hp.com/(※写真はまだ準備中の時のものです)
出雲市、地元の大工さんが建てたという和風の立派なお宅の玄関に下駄箱を制作しました。「和室の物は作れますか。」と尋ねられる事も有りますが、特に和洋の区別を気にする事無く依頼を受けています。それは様式を軽視するという事では無く、その空間を理解して必要な条件を押さえ、材料を吟味して形にすると、自ずとその場所に合う物になるはずと考えているからです。今回は遠方のお宅という事もあり、設置する場所の寸法図と玄関の写真を各方向から数枚、玄関や家の外観、庭の写真等も数枚送って頂き制作をはじめました。建物にも和の建築らしく木が豊富に使われています。—— 納品に訪れた際、玄関に使われている木は写真で見るよりも年数相応に経年変化で色に深みが出ているという印象で、下駄箱の栗材は削りたてでやや明るめの色に感じます。しかし物の量感は間違っていないと感じ、玄関戸のガラスを通して明るく光が入る場所ですから一、二年もすれば色味もすっかりその場所に馴染む事を想い納品を終え戻りました。 もちろん出雲大社へ参拝も忘れずに・・。
栗材 : oil塗装仕上(引き手/桜材、内部可動棚のみシナ材ウレタン塗装仕上)
W1420×H1080×D450
新しくテーブルをデザインしました。夙川にあるTIMELESSというインテリアショップで販売するという明確な目的を持ってデザインの作業を行ったので、図面の変更や模型の制作、部分試作などを繰り返したものの成るべくして成る形に納まったと思います。TIMELESSは北欧モダンの家具を中心に扱っていますがオーナーのセレクトするものはその範疇に留まらずご自身が心地よいと思う空間に合うものは国内外のもの問わず、量産品、ビンテージのもの、又作家ものまで取り揃えています。店名の由来をはっきりとお聞きした事はありませんが、その商品買い付けのコンセプトはその名の通りだといつもお店に伺う度に感じています。アトリエKIKAの物作りも時間を超えて、世代を超えて長く使って頂けるものをといつも思うところで、ならば共に物作りが出来るはずです。北欧のテイストを意識していない訳ではないですが、その印象のみを頭に置いて、各部材の厚みや線の太さ、曲線の作り方、使う木目の方向、等々一つ一つ整理して必然性のない部材は使わない、又様式に捕われないシンプルな定番を目指してできたテーブルです。
TABLE 1800
1800×900×700(720)
ナラ材oil塗装仕上
受注制作
¥315.000
サイズ、樹種の変更も可です。お問い合わせ下さい。
前回の記事のステッキ/杖に多数お問い合わせを頂き有難うございました。「プレゼントにしたいのですが、」という声が少なくありませんので箱を用意致しました。大切な方への贈り物にも是非どうぞ。
下の2枚の写真は夏休みを使って淡路島の我家へ来てくれた学生時代からの友人が撮ってくれたものです。
前回の私が撮った写真は説明的なものでしたが彼は杖を使っているシチュエーションを考えて雰囲気のある絵にしてくれました。工房の風景などを撮り帰った彼から先日沢山の写真データがプレゼントとして届きました。工房の案内としてまた時折その写真を紹介したいと思います。
Photo by Gen
父親が腰を悪くしたのを切っ掛けに作ってみようと思いたったのですが、調べて行くとこのステッキというアイテムはなかなか奥が深いものです。歩行の助けとなる棒でありながら各国で様々な形があり、またヨーロッパではでは装飾品でもあり社交場のファッションアイテムの一つでもありました。伝統ある専門メーカーもフランス、イギリスやドイツ、イタリア等には数社あるようです。しかしそれに捕われすぎては形になりません、歩行の助けとなり少しはお洒落に持ち歩けるものをと作り始め試作を繰り返しました。加工機にあまり頼らない手加工で形を削り出す事によって握りや棒部分に表情が出てまた握り易さも増すのではないかと考えています。ちょうど刃物の見直しを図っている時期とも重なり小鉋、南京鉋や小回りの効く小刀を新しくこのステッキを削るために作りました。制作者としてはこの刃物の使い方の応用がまた他の物を作る時にかなり役立ちそうに感じています。さて仕上がったステッキは形状2種類、樹種2種類の4タイプ。マイナーチェンジを加えながら少しずつ長く作っていきたいアイテムです。
○メープル/ウォールナット・キャメル革(ストラップ付)
○チーク・ブラウン革(ストラップ付)
長さは身長 ÷ 2+2〜3cmを目安にカットしてお渡しします。
現在制作休止中
※ 在庫はお問い合わせ下さい。
雨が降っては晴れて、梅雨のこの時期草は目に見えるような勢いで伸びて草刈機を手にする頻度が上がります。人が雑草の生命力に勝るとも思えませんが刈った後は[どうだ」と、しかし二週間もすればまたもとの長さまでしっかりと伸びて「やられた」と、春から秋まで年の三分の二はこの攻防戦が日曜日の朝の仕事です。
WORKSのページに写真を追加更新しました、どうぞご覧下さい。
http://www.kitajimanobuyuki.com/works/
木工制作者にとって丸太の購入、製材は必須とは言えませんが出来れば、出来る限りこの段階から関わった材料を使いたいと考えています。材木商から板を一枚、二枚と購入する事は勿論可能ですが、一つの品物を作るのに十枚の板が必要とした時に、同じ樹種でもそれが一本の丸太から挽いて取られたものが揃う事はまずあり得ません。同じ樹種の木にもそれぞれ個性があって板になった時に木味の違いとなって表れ、それをランダムに組み合わせて作ったものと、同じ丸太から取った木味の揃った板を組み合わせて作ったものとどちらが良い仕上がりになるかは説明するまでもないと思います。メリットはそれだけではありませんが、デメリットに繋がりかねない緊張感もまた買っています。それは信頼の置ける材木商の社長の勧めを受けて丸太は買いますがどんなに熟練のプロでも透視能力がある訳ではなく、丸太の中身は挽いてみなければ厳密には分からないという事です。いい木目、想像以上の板が取れれば顔がほころび、また思いがけない難が出れば「うっ」と表情が歪みます、北米産材のウォールナットは中から銃の弾丸や鉄線が出てきて材を傷めている場合などもあり製材中はやはり目を見張ります。今回は概ね「よしっ」と終えられましたので写真を並べてみます。緊張感が多少でも伝わるでしょうか。
岸和田市(株)服部商店にて
これから桟積みをして何年もの乾燥期間を経た後に加工に使える材料となります。
ガラスと木は対照的な素材。感覚的な言葉で表すと硬いと柔らかい、冷たいと暖かい。ガラスは衝撃に脆いが方や木は粘り強い強度を持つ、など。また透明と不透明は言うまでも無い事ですがこの点が組み合わせて使うには特に面白いと思えるところです。無表情で透明なガラスと対比されると木はその木目が表情豊かに引き立っているように見えます。ショーウィンドウやショーケースの様にガラスを通して見ると中のものが艶やかに見えるのも効果的で、組み合わされた木に対しても同様の効果はあるはずと私は思います。しかし光の加減ではそれも全く裏切られ白く反射して向こうの物は何も見えなくなったり、映り込みが強くてそれしか目に入らなかったりと、透明ガラスが不透明になる時があるのですが、家具の場合それも味方につけて考えれば一つのテーブルやガラス扉のキャビネットが時間帯や季節の移り変わりで、また見る角度でも幾通りもの表情を持ちバリエーション豊かに楽しめるのです。
分解、塗装のはく離という普段では馴染みの無い作業から始めました。車やオートバイは年式の古いものをレストア(レストレーション)して内外装やエンジンに手を入れ走行不能だったような車体を蘇らせる、そんな業者が家具よりはまだ一般的にあるように思います。私も学生の頃から車好きで旧車好きなので車のレストアの作業を時々目にする機会がありますが、年式が古ければ古い程その作業は当然ながら困難で全体を各部品に分解し、腐食部分を造形し直したり、手に入らない部品を新たに作ったり、同仕様の他車から部品をコンバートしたりと・・・細かくは切りの無い作業です。今回の書斎机(椅子)の修理も先ず各部の分解に始まり、車のレストアと同様で使える価値ある部材は極力使える状態に戻し、新たな部品を組込んだ方が良い場合は全体に馴染むようにして加える、という作業を施しました。写真には表れない内部の部材や引出しの箱は虫食いのダメージがひどくほぼ一式作り替えた程ですが、表に出ている楢材はホゾの組み直しや、反りの矯正、補強等そして再塗装を施せばしゃきっと蘇りました。作られてから少なくとも60年から70年くらい経つ机ですが私の診断ではまだまだ折り返し地点にも達していないのでは、と。納品時に依頼主の方に大変喜んで頂いたのが第一に何よりの事ですが、この年代の家具(木製品)に触れ感じる事も多くありましたので良い機会となりました。
Before
柳田國男の机を見る事を目的に兵庫県神崎郡福崎町の記念館を訪ねてみました。この机は柳田が大正10年頃から昭和37年にかけて成城の書斎で愛用していたもので民俗学の数々の名著はこの机で執筆されたと言われています。写真で見ていた印象よりも実寸法は小さく天板部で1200×700程のコンパクトでありながらしかし凛とした佇まいがある立派な机です。 この机にとても良く似たものがあるので是非修理(修復)をして使いたいと、以前からのお客様から連絡がありました。こちらは南あわじ市の某医院の院長が使っていたものでおそらく昭和20代からかな・・との事ですがいつどこで作られたか等は聞き伝わっていないようです。材質や細部の工作、また全体の大きさはに違いはありますが両袖と中央の引出し、天板上の棚、蛇腹式のシャッター等はほぼ相似形の構成になっています。推測では大阪から運んできた可能性もあるとの事でしたのでこちらは関西圏の職人の手に依るものでしょう。片や柳田の机は東京または関東圏の職人に特注して作ったものでしょう。(記念館で尋ねてみましたが机についての詳しい資料や記録は特に無いようでした。)特注の家具とは言え何処でどんな職人が作ったかという事は半世紀以上も経つと案外わからなくなってしまうものです。こんな事も、特に目立って注目される事無く日々生活をし生涯を終えていく八割方の人々の営みに注目し掘り下げた柳田國男の学問、フォークロア(民俗学)と重ねてみると面白いと感じました。そして修理は引き受けましたので少なくとも50年後の職人に繋ぎたいと思うところです。